• 「私、今とーっても幸せだよ」
     そう言う彼女の顔は、今にも泣き出しそうで、悲しそうで、あまりにもみっともなくて。でも、とても美しくて──僕は苦しくなった。
    「幸せ……な、はずなんだよ」
     そして彼女は、僕の胸に顔をうずめた。「なのにね、なんでだろう。涙が止まらないの」
     僕はそんな彼女を抱きしめた。
    「いいよ、泣いて」
     すると、僕の服をぎゅっと掴んで、声を押し殺して彼女は泣いた。
    「ごめんなさい……」
     彼女がなぜ泣いているのか、僕にはわからなかった。ちゃんと大学に通えていて、数人の友達もいて、就職も決まっているというのに、どうして泣く必要があるんだろう。
    「大丈夫だよ」
     そして僕はと言うと、彼女に気休めの言葉を吐き続ける。
    「僕は君の味方だから」
     それが嘘であることくらい、彼女だって気づいているはずだった。だけど、それでも良かった。
     今はただ、彼女のそばにいられるだけで、僕は幸せだった。