• 「虚像」

    “ぶっちゃけヒロインがワンパターン”
    “とりあえず明るい子好きなのは分かった”
    “ヒロインのキャラ薄くね?”

    自分の小説の感想欄を見ていた僕は、あまりに的確な指摘に思わず感心した。マウスホイールを転がせば、画面上を似たような意見がいくつも流れていく。

    【小説なんか文字ばっかでつまんないと思ってたけど、実はすごいんだね!言葉だけで人を作れるんだもん】

    写真立ての中で笑う少女がくれた言葉は、今でも一字一句正確に思い出せる。彼女が何も言わずに消えたあの日から、僕は言葉だけで人をーー……サクを作り出すため、一心不乱で小説を書き続けた。なのに何度書いても彼女にならないのは、きっとまだ実力不足なせいだろう。

    「そろそろ続き書くか」

    軽く伸びをし、再び画面に向き直る。執筆中の新作では、今度こそ明るくていつも笑っていた彼女を再現するのだ。
    その時、ふと笑顔のサクと目が合った。僕は何かから目を逸らすように、写真立てを伏せた。