• 「紫陽花の色は土で決まるんですって」

    彼女は道端の紫陽花を見て言う。
    僕はてっきり種で決まると思っていた。
    曰く土壌が酸性なら青系、アルカリ性なら赤系になるらしい。

    「土に合わせて色が移ろうの。綺麗ね」
    「うん」
    「でも白もあるでしょう?あれは色が変わらないの」

    鮮やかな紫陽花の中にぽつんと白い紫陽花が混じっていた。変わらないものもあるのか。

    「白い紫陽花は色の成分を持ってないの。だから変わらないのね」
    そうなのか。
    それじゃあ変わりたくても変われない。周りについていけない。
    そんなのは寂しいと思う。
    僕がつまらない感想を言うと、彼女は笑った。

    「そうかしら。移ろう美しさもあるけれど、変わらない美しさもあるわ。一本筋が通っているみたいで、私は白の紫陽花が好きよ」

    僕はあまり白の紫陽花に目をとめることはなかったが、彼女の話を聞いて以来意識するようになった。
    色を持たない。
    それもまた個性の1つなのだ。

    無彩色で周りに馴染むのが下手な僕は、白の紫陽花に勇気を貰った。