• 「ここに、ね」
     腹の上に女が乗っている。武器など一度も手にしたことのないだろう、しなやかで血の通わぬような白い指が。地図でもたどるように胸を擦った。布地を滑るだけのむず痒さに揺らいだ身体に、嘲るような視線が刺さっていた。
    「種を植えるの。そこら辺で拾ったもの。そしたらいったい、どんな花が咲くのかしら」
     女の指は胸の芯を示していた。女の触れた箇所は熱を持つどころか、雪のように冷えている。
     だらりとシーツにおろしたままだった腕を上げて、女の甲に添える。氷のように透き通る肌は金属の温度に似ていた。
    「僕に選べるなら……君が好きな花にしようかな」
    「知らない癖に」
    「教えてくれないのかい?」
    「だめよ、」
     ――もうそんなの、意味ないもの。
     耳元で微かな囁きが響き、そのまま女は消えた。
    「……やっぱり菊か、百合が似合うかな?」
     死んだ女が会いに来てくれるなら、金縛りだってかまわない。いつまでも胸に残る彼女の笑顔は、まだ枯れてくれそうにないのだから。