•  「うたぎいる!」と腕のなかで笑う子ども。頬に団子の残りをつけていて、甘い香りを纏った小さな手で、我が子は月を指して笑っていた。
     「あっ本当だ!兎がいるねぇ」
     勿論これは嘘だ。遠く離れた月の模様は、私が幼い頃から兎の形には見えやしない。むしろなにが見えないが……? と友人たちがはしゃぐ様を冷めた目で見ていたのを覚えている。まあ、そんな私も親になりまして、子どもの考え、見えているものを尊重出来るようになった。
     「うたぎ、かーいね、ママ」
     「そうだねぇ」
     「あっママ!」
     なにかを見つけたのか。腕から落ちんばかりにぐ、ぐと身を乗り出しては、身体全体で月を指し示す。
     「お月さまは逃げないよ、どうしたの?」
     「うたぎ!」
     一体どうしたというのか。よくよく月を見る。信じられないことに、月面がどんどん兎に見え、いや、兎がそこにいた。しかも動いてる。餅つきをしている。
     「ばいばーい!」
     子どもが手を振ると、月面の兎はウインクをしてくれた。
     
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