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「これはね。私の妻の宝物だったんですよ」
「なぁそれ長くなる?」
「オイコラこのバカピアス野郎!!すみません進めてください!」
年寄りの長話と三千八百万が引き換えなのに、何という事を言うんだろうか。
今こそ一生分の媚びへつらいを出さなくて、一体この先いつ出すつもりなのだろう。
「妻はね、お洒落な人だったんです。当時海外で流行っていたミニスカートとタイツを履いて、まっすぐな脚は誰もが憧れていた」
すでに聞いていない雰囲気を出しているピアス野郎の脇腹をつねりながら、俺は正座をして全力で首を縦に振り続けた。
「皆のあこがれだったから、銭湯で湯を沸かして煤だらけの私と一緒になった時は誰もが驚きました。ですが彼女は結婚したら、自ら番頭に毎日座ってくれたんです。『せっかくのタイツが見えないじゃない』なんて言いながら」
「っへぇ!凄いっす!」
俺はコミュ障だ。人を不快にさせない相槌のタイミングなんかわからない。
だが、ピアスがやらない以上、俺がやるしかないのだ。 -
「さ、さんぜん……うそだろ!!」
俺とピアス男は、無言のままぶつかるように強く肩を抱き合った。
腹が震えて、おかしくもないのに笑いが止まらない。泣きたいのか、なんなのか、全部がごちゃまぜで何も分らない。
ただなぜか、目の前のいつもひょうひょうとしたピアス男は顔を手で強くこすっていて見せようとしなかった。
真っ赤な耳をして、小声でありがとな、ありがとなと繰り返していた。
「バカ、まだ何も貰ってねーんだよ……その見た目でメソメソ泣いてんなよ」
「おぅ。バッチリ泣いてるぜ」
「ここは泣いてねえって言うとこだろ……」
肩を思い切り叩いてやると、タイツ男が小さく笑った。
「このタイツが選んだのが、君たちで良かった。いや、君たちだから選ばれたのか」
ドラマの最終回のような雰囲気を出す男に、俺たちはそちらへ向き直った。