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「へぇぁ……うわぁ……スゴーーイ……はは」
俺が頷き続けた結果、外は既に暗くなっていた。
おっさんの話はとどまるところを知らず、俺は会ったこともない人の人生を追体験することとなった。
「だから言ったんだって〜。タトゥー入れるときも離してもらえなかったんだからさぁ」
「ごめんね次から先に教えて……」
この数時間の話を要約すると、その奥さんはすでに亡くなっていて、すすけた白タイツはおっさんが初めてプレゼントした思い出の品らしかった。
子供がいない夫婦には遺品を譲る相手もおらず、自分が死んだらタイツも捨てられてしまう。
悲しみにくれたおっさんは、悩んだ挙げ句こんなアホなことを思いついたらしい。
「恋って、人をアホにするんだなぁ……」
「お前はいなくてもアホにみえる」
「いないって決めつけやがって……」
これだから顔のいいやつは。俺たちは延々と降りかかる夫婦の愛のメモリーに、いつまでも白目をむいていた。 -
「なぁそれ長くなる?」
「オイコラこのバカピアス野郎!!すみません進めてください!」
年寄りの長話と三千八百万が引き換えなのに、何という事を言うんだろうか。
今こそ一生分の媚びへつらいを出さなくて、一体この先いつ出すつもりなのだろう。
「妻はね、お洒落な人だったんです。当時海外で流行っていたミニスカートとタイツを履いて、まっすぐな脚は誰もが憧れていた」
すでに聞いていない雰囲気を出しているピアス野郎の脇腹をつねりながら、俺は正座をして全力で首を縦に振り続けた。
「皆のあこがれだったから、銭湯で湯を沸かして煤だらけの私と一緒になった時は誰もが驚きました。ですが彼女は結婚したら、自ら番頭に毎日座ってくれたんです。『せっかくのタイツが見えないじゃない』なんて言いながら」
「っへぇ!凄いっす!」
俺はコミュ障だ。人を不快にさせない相槌のタイミングなんかわからない。
だが、ピアスがやらない以上、俺がやるしかないのだ。