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あたしメリーさんったー
あたしメリーさんったー
全国のメリーさんが集うったーです。
ここで今何をしてるか実況して、持ち主を怖がらせちゃおう。
ここで今何をしてるか実況して、持ち主を怖がらせちゃおう。
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あるいはそれは、彼女の両親が事故で亡くなった時かもしれないし。
彼女を引き取った母方の祖母の所為かもしれないし。
幾度となく流れていく夜と時間の狭間で、クリスマスという概念が汚れ始めたその時からかもしれない。
いずれにせよ彼女が気づいた時、すでに彼女の居場所は"この世界"には無かった。
影。
人の背後に憑いて廻る名も無き影、それが彼女の全てだった。
名も無く実体も無く自らがいるべき場所も無い。
空を、海を、大地を征く人々……それらの背後に降り立ち彗星の尾のように人から人へと背後に憑いて廻りながら。
様々な人がいた、様々な人を見た。
様々な土地へ行き、様々なものを見た。
美しいものがあった、醜いものがあった。
賢いものがいた、愚かなものがいた。
しあわせを、ふしあわせを、清らかなもの、汚濁に塗れたものを見た。
──いずれも彼女には関係がなかった。
ところであたしと一緒に後部座席に座ってる、ずぶ濡れな女の人は知り合い?
そうなの。さっきから足の周りをずっとくっついてるの。
離れてくれそうにないからこのまま会いに行くわ。
お風呂にスマホ持ち込むのは
やめなさいって、何度も言ってるの
うとうと眠くなるのにも気をつけなさい
それ気絶しかけてるのよ、危ないわ
みんなあたしのことが大好き
そんなに話題にされるとちょっと照れちゃって、最近は引き籠もりがち
今どうしてるって?
あなたの後ろになんていられないわよ!
あなた、友達と肝試しとか言って○○の滝に行って来たでしょ、変な連れ帰ってこないでよ!
そろそろ羽毛布団はしまっちゃおうか考え中
イギリスの『エミリー』スペインの『指輪』、本邦でも『リカちゃんの電話』等がある。
なのに何故、『メリーさん』だけがここまでメジャーになったのか?
……それはひとえに電話というガジェットの存在が大きなポイントだと私は思う。
ああ、言いたいことは理解っている。
『リカちゃんの電話』もそうだ、と言いたいのだろう?
より正確に言うのならば、電話が"各家庭に一台しかなかった時代"と異なり、今のように大半の人間が端末を手にし、気軽にネットへと接続できる環境こそ、『メリーさん』という怪異譚がここまで広まった最大の理由なのだと思うのだよ。
そしてそれは、なにもメリーさんに限った話ではない。
いまこうしている瞬間にも、何処かで新しい怪異は産まれているのだ。
プルルルル…ガチャ……chord name Merry
彼は旅立った。繰り返す、彼は旅立った。
以上だ。報酬はいつもの方法で例の口座に入れておいてくれ。
あなたがお風呂に入ってても
あたしはあなたの後ろにいるの
湯船にスマホ落としても知らないからね
ん?メニーさん?違うわ、たくさんのメニーじゃなくてメリーさん
ん?マニーさん?違うわ、お金じゃなくてね、あたしメリーさん
もしもし、電波悪い?
もしもし、もしもーし!
わこつありがとう!あたしメリー
今日はあなたを実況していきたいと思います
老婆はメリーの名を呼んだ。
もう何度となく繰り返し繰り返して名を呼び続けたのだろう、その声は掠れ嗄れて"すきま風"のようにか細く、もしメリーが間近にいたとしても聞こえることはなかっただろう。
メリー、メリーや。もう日が暮れるよ。
お家に帰ろう、おまえの好きな温かいシチューがあるよ。
老婆の目はもうほとんど見えていない。
いま、彼女は村の中を彷徨っていると思っているが。村と森との境界である防柵を彼女が越えてから三十分以上が経っていた。
夜の森の中、メリーの名を呼びながら、より森の奥へと老婆は歩んで行く。
メリー、メリーや。どうか返事をしておくれ。
返事はない。未来永劫メリーが老婆の声に応えて返事をすることは、することだけは決してない。
夜が深まる、月こそ出てはいないが空に輝いている星が老婆の姿を"ぼんやり"と闇に浮かべていた。
星明かりの下、覚束ない足どりで森の中をよろよろと進む老婆
その姿を空から見つめる影があった
現在、貴様背後直立不動!!
ひつじがひとつ、ひつじがふたつ
ding dong ding dong ding dong ding dong……
ひつじがみっつ、ひつぎがよっつ
ding dong ding dong ding dong ding dong……
ひつじがいつつ〜……ふふふふふ
らんらんら〜ららんらんら、らんらんら〜ららんらんら
ひつぎがむっつ〜