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そうして役所の人が、正式にそれを受理し、何やら専門家っぽい人に儀式の開始を伝えると、それは始まった。
どこともなく風が吹き始め、白く晴れていた空は徐々に黒い雲を連れてきた。びゅうびゅう、ごうごう、専門家が異国語のような耳慣れない言葉を叫ぶようにして唱えている。だがそれすらも強風の音でかき消されるようだった。昼過ぎだというのに、いよいよあたりは真っ暗になってきて、さっきまでの天気が嘘のように激しく縦に横に揺さぶられる。皆コートやジャケットの襟元を掴んで、飛ばされないようにぎゅっと固まっていた。異国語の言葉はどんどん語気を強めていき、いよいよ稲妻と区別がつかないような音になった時、どどぉんと本当の雷鳴がひとつ轟いて、途端に、すべての音がぱたりとやんだ。 -
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固まっていた人々は、急に静かになってようやく自分たちが目を瞑っていたことに気付き、ゆっくりと瞼を開いて上をみた。急な静けさの原因を知りたい者もいたし、何かが終わったのなら、何かが目の前に現れるんじゃないかというものもいたし、専門家に説明を求めようと考えたものもいた。
しかし、その静かな一瞬で全員等しく上を向き、そしてまた、全員等しくその〈笑い声〉を聞いた。
下卑た、下品な、喜びに満ちた笑い声。
ケタケタと馬鹿にし、見下すような色を曝す嘲笑が、天から人々へ降り注ぐ。人々は、怒りと同時に、絶望に似た無力を感じていた。──我々は、誤ったのだ。出しては行けないものだった。聖なる存在などでは無かったのだ。
笑い声は騒ぎ出す、姿も見せず。
「許しを、赦しを出しおった!!得たり、得たり!!我ゆるしを得たり!!」 -
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人々は、決して離れないように家族同士を繋ぎ止め、笑う声から逃げるようにして家まで急いだ。笑い声は、逃げる人々の背に向けて、急かすように、甚振るように、より一層声を上げ、笑い声を低く遠く震わせた。 -
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専門家の人は、魔法陣のことをパクトって読んでた。 -
魔法陣の周りには人がたくさん集められている。この人たちは小学校の近所に住む一般人だったが、聖なる存在を解放するにあたって、市役所から立ち会いを命じられた。私と家族もその一員だった。
市役所の人たちは拡声器で説明を行った。
ザックリいうと、今このあたりの実質の支配者はここらに住んでいる我々であるため、聖なる存在が表に出やすくなるように、〈許可〉を与えねばならないということだった。つまり、この土地の支配権を聖なる存在へ譲ることになる。
我々は少し訝しんだが、役所の人が言ってることだし、何らかの信憑性があるもんなんだろうと、何より聖なる存在だっていうし。まぁこの辺りを守ってくれるんだろうから、寧ろ歓迎なんじゃない?といったユルさで支配権の譲渡を〈許可〉した。