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物語書いったー
物語書いったー
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かじかむ指に息をかけつつ、凍りついた道をすべらないよう恐る恐る歩いていると、『もう春だよ』と、後ろから声をかけられた気がした。
振り向くと、そこには枝ぶりのいい梅の木が。「まだ冬だよ」と私が言うと、冷たい風に甘い花の香りが交じる。
よく見れば、まだ固く閉じた蕾の中で、一輪だけ先駆けて咲いていた。
恋さえ知らぬ乙女のように、清らかな白梅が一輪。
「その日、私に春が来たのよ」
そう言って笑う梅子ばあちゃんの家の庭には、大きな白梅が植わっている。
ショートケーキは言った。
「君も甘いのが好きなんでしょ」
カスタードプリンは言った。
「私達ととろけましょう」
シュークリームやパフェやゼリーが、皆期待した顔でぼくを見つめている。
ぼくは皆に愛想笑いをして、部屋の隅で膝を抱えてたせんべいの手を取って部屋を抜け出した。
せんべいはぼくの手を拒まなかったけど、ちょっとうろたえていた。何度か口を開けしめして、気まずそうに「なんで」とだけ言った。
「あんまり、甘いの得意じゃないんだ。歯ごたえのある方が好きだし」
せんべいは何も言わなかったけど、繋いだ手を握り返してくれた。
後日、部屋を覗くとそこにはもう何もなかった。
せんべいはひび割れた硬い手をして、まだぼくの隣りにいる。
「アンタは」
砂漠の中に立つ友人は、真っ黒な外套に身を包み立ち続ける。その目は何かを探すように空を見上げている。これもずっと変わらないはずだった。しかし、何度もやり直すたびにその目はたしかに濁っていく。
「もう止めろ」
分かっているはずだ。この世界はどうしようもないと。どんなに手を尽くしても結局は滅んでしまうのだと。
「自分に嘘つき続けるのって疲れるだろ」
今までどんなに声をかけても反応しなかったのに、目線を俺の方に向けた。
「君だってそうじゃないか」
「は?」
「私と同じように、希望を探し求めているのだろう?」
「違う……俺はもう」
さくり、さくりと砂の沈む音がする。黒い影がこちらに向かっている。
「ここに来たということはそういうことだよ」
『たとえ最高にクソな世界でも』
肉体や魂がぼろぼろになっても
仲間が傷つく姿を見ることになっても
勇者は何度も、蘇る。
己の正義を剣に込めて
悪なりの正義を受け止めて。
勇者は何度も、蘇る。
当たり前の日常を取り戻すために
勇者自身の平和を守るために
勇者は何度も、蘇る。
音の出処はどこだろうか。好奇心が顔を出す。
ほぼ正方形の八畳一間から玄関に続く廊下を挟んで、右にキッチン、左に浴室、トイレが並ぶ、よくある1Kの間取り。部屋は綺麗な方だ、探すのに苦労はしまい。
そう思っていたのに小一時間ほど経っても原因が見つからない。今も部屋のどこかで鈴の音のような硝子片がさざめくような、耳心地のよい音が聞こえている。
「一体どこから聞こえてくるんだろう」
お前たち知らない? 趣味のドールハウスに住まわせている小さな人形たちに話しかける。物言わぬ彼らに話しかけたところで返答はない。しばらく多忙で彼らは今日もお茶会を開催中なのだ。
「次の休みこそ物語変えたいねぇ」
チリチリと、微かな音色が応えた気がした。
昼休み、そう言われて顔を上げると3組のゴロウ達が居た。
顔にはいくつもの銃創があり筋肉ははちきれんばかりに隆起している。
その姿はさながら地獄の鬼軍曹のようであった。
「立てやコラ」
しかしこちらとしてはそれどころではない。
近頃の陽気のせいで鼻がムズムズしてたまらないのだ。
身長2ミリの小人たちが鼻の中でレイヴパーティーをしているとしか思えない。
DJ鼻毛の煽りで既にフロアは沸き立っている。
免疫さんも「これオレ好きかも」と腰を左右に振っている。
顔が熱くなるのを感じ、汗がにじみ体が震え出した時、ついに。
「ヴェックシュン ヴェヴェヴェヴェックシュン」
ドロップである。
市井の言葉ではクシャミとも言う。
瞬間、堰を切ったように光速の鼻汁やよだれがゴロウ達に襲い掛かった。
あるものは溶解し、またあるものは爆散した。
風圧によって引き起こされた原子崩壊により日本は5割ほど消し飛んだ。
やれやれ、今年の花粉はHotな奴らだな。
それが帰宅の合図だと言わんばかりに席を立つ人たち。
荷物をまとめて帰ろうとしたとき
「ちょっと待ったー!!!」
突如響く主演のアナウンス。ざわつくことを想定していたのか
「この後すぐ用事がなかったら聞いてほしいことがあって...聞いてくれるかな?」
この言葉に反応した8割ぐらいの人はアナウンスを聞きに戻った。
「私達の物語は、ここでおしまい。だけど...忘れないで。シアターを抜けた先の人生は、貴方が主人公だってこと。」
「物語とは違って、人生はあなたが決められるもの。...どうか、そのことを覚えていてほしい...!!」
当たり前かもしれないこと。「人生の主人公は自分自身だ」ということ。
主演もそうだが、脇役だって、どんなモブキャラだって、守りたい信念の一つはある。
「人生はあなたが決められるもの」。その言葉に背中を押され、また人生という物語を続けた。
突如、親友からそう声をかけられた。
夏休み最終日の夜、私達は肝試しをしに行くため廃病院に二人で向かう。
でも、肝試しはあくまでも仮の目的。
本題は、友達いわく「世界を救う」旅だそうだ。
(世界を救うって...どういうこと?)と疑問に満ちた私の顔を見かねたのか、親友が口を開いた。
「きっと、世界を救うって何なんだろうって思ってるよね、でももう少しでわかるから。」
私の疑問は晴れないまま、ついに廃病院にたどり着いた。
その刹那、親友はすぐさま入口に駆け込み出した。
「待って!!!!」
私もその後を追いかけ、親友がとあるドアの前で立ち尽くしたところで、私に話しかけに来た。
「...8月32日っていう伝説、知ってる?私の血筋がずーっとやってた儀式なんだけど」
親友はそう話し始めたが、私は正直理解ができなかった。
...あまりにも非現実過ぎて目眩がした。
なんとか現実を読み込もうとしていて気づかなかった。
親友の声が震えている事に。
ここはどこ?私が誰?なんてジョークも言ってられない、本当に何処かも分からないのだ。
私は知らない場所の陰で寝そべっていた。
周りは明るく優しいイメージで白い霧がかかっていて、足元は良く見えなかった。
「とりあえず歩かないきゃ…」
と私は少し動いてみる事にした、その瞬間!
「キャアッ」
下に川があったのだ。
思ったより川が深く私は溺れた。
どんどん意識が遠のいて行く…
ーーーー目が覚めると病院にいて知らないおばさんが私を見つめて
「起きた!友紀が起きた!」
と喜んでいた。
変わり者の彼女が、パーカーを羽織った水着姿でそう言った。空気で膨らませるボートを持って出かけようとしたのでさすがに僕は止めた。
ここから海はとても遠い。
彼女は自転車も持っていないし、自動車免許も持っていない。まさか電車で?その格好で?僕が問いかけると彼女はにっこりととびきりの笑顔を見せた。
「海まで川下りするの。面白そうでしょ」
神よ。
彼女がここまでアホの子とは思わなかった。大きなため息をつくと、彼女はふと真顔になった。
「ケイくんさ、浮気してるよね?」
「え?」
頭が真っ白になった。
「私が無事に帰ってこれたら、マユちゃんだっけ、その子と別れてね」
突然のことに頭がうまく回らない。バレていた。どうして。隠し通せていたはずだ。名前まで知っているなんて。
彼女は扉を開けて出ていった。
無事に帰ってこれたら。その言葉がようやく頭に入ってきた。
僕は彼女を追わなかった。
そして彼女は、何日経っても帰ってこなかった。
遺体は海で発見された。
ここは「物語書いったー」。気が向いたらここに皆が書いた物語を書いてくれると嬉しい。
基本的にはここの ったーに投稿するのは「物語・短編・詩」なら何でも構わない。どんな長さの物語でも歓迎するよ。
ただし、ここに残せる文字は原稿用紙一枚ちょっと(420文字)程度しか書けないから、そのところは気をつけてくれ。
...あ、そうそう。もし物語の感想を書くときは「返信欄」に書いてくれると嬉しいな。できるだけタイムラインは本文が見れる「見出し」のようなイメージを想定しているから、よろしく頼むよ。