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小説書いったー
小説書いったー
2022年5月28日に作成
#趣味
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420文字以内の小説を書きたい読みたい人向け
・一次創作のみでお願いいたします。
・ジャンルは冒頭か返信部分に書くとわかりやすいですがなくても問題ありません。
※現在、改行を使った420文字小説の場合、文字数オーバーでエラーが出るようです。
お手数をおかけしますが、文字数だけではなく改行も1文字とカウントして420文字以内になるよう調整して頂けると助かります。
#小説
#しょうせつ
#420文字小説
#読書
#創作
#息抜き
このTterはアーカイブのみ閲覧できます
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/.53ge
2022年6月23日
ふと肘掛けに置かれた自分の腕を眺める。老いて皺だらけになった重い腕。
そっと目を閉じて幻想に浸る。けぶるような薄紅色の花を背に、あの人が私にはにかんだ微笑みを見せている。薄紅がふわりと優しく空を泳ぐ。
陽だまりのような柔らかな心地がした。これが死というものならば存外悪くない。私の腕が肘掛けから静かに滑り落ちた。
読み込み中...
ul3UC8
2022年6月23日
それはいつも暗闇にいた。
ときには飛び、ときには歩き、ときには走り、ときには休む。
暗闇の中に希望を見出し、静寂の中に未来を見る。
屈辱を胸に刻み、憎しみを糧に立ち上がる。終わりのない夢が体を蝕んでもなお、今日もまた迷いのない一歩を踏み出す。
それはいつも暗闇と共にいる。
読み込み中...
prJKc9
2022年6月23日
迸る激情をひたすら紙にたたきつける。
白紙だったものには取り留めのない言葉が次々と並び、どうにかこうにか文の体裁を保って手紙面していた。
「好き」とか「愛してる」とか、そんな簡単なものじゃ決して表しきれないこの気持ちを受け止めてくれるのはこれしかなくて、手の痛みだって筆まめだって気にせず手を動かす。
この行為を始めてだいぶ経つけれど、私は一度だって自分が納得のいくものを書けたことがない。
それでも続けるのは、抱える気持ちのぶつけようが他に見つかりやしなかったから。
今日も今日とて書き終えた手紙をダンボールへ放り投げる。
積年ならぬ積紙の思いってやつ。
積み上げた紙の山も、そろそろ捨てるべきだろう。
ついでに貴方へのこの想いだって。
それができた試しがないから、こうして年も紙も積み上げたわけなんだけど。
でもしかたないじゃん。
筆まめとインクだらけの醜い手なんか、君はとってくれないでしょ?
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whaeWQ
2022年6月22日
ここの乗り場にはひっきりなしに電車が来る。バスが来る。船も飛行機も車も馬車も来る。乗り込んでいく人々はみな一様に怒ったような顔をしていた。弱い者は、いつまで経ってもどの乗り物にも乗ることができない。年寄りは順番を追い抜かされ、子供はそのちいさな足を踏みつけられ、病人は行く手を阻まれる。
「お先にどうぞ」
老婆が、か細い声で言う。人々はさも当然だという顔をして乗り込んで行く。
「おさきにどうぞ」
子供が、幼い声で言う。人々はほとんど無視するようにして足を進める。
「おさ、き、に、どう、ぞ」
病人が、息も絶え絶えに言う。人々はいっそういかめしい顔をして扉をくぐる。
ここに来た乗り物がどこへ向かうのか、気にする者は誰ひとりとしていない。どこに行くかではなく、目の前の乗り物に乗ることが目的だといわんばかりに、必死の形相をして乗り込んで行く。三人は、一便、また一便と乗り物を見送る。これが復路のない道行きなのだと、人々はまだ気づかない。
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E277A6
2022年6月21日
中学時代の同級生が、失踪したらしい。
私はそれをニュースで見た。彼は画家だった。画家になったこともニュースで知った。画家という職業はゴッホとかモネとかくらいしか知らない私は、現代にも画家という職業はあるんだなとぼんやり思った気がする。そうして、あの頃一つ前の席に座っていた物静かな男の子が今や随分と遠いところにいるものだとも。
彼の個展には一度だけ行った。近所の百貨店でやっているのを見かけたからだ。月並みに綺麗な絵だと感心して、帰りにポストカードを一枚買った。彼の代表作らしい、不思議な夜の森の絵がプリントされたものを。
後ろ姿ばかり見ていたから、映し出される顔写真は確かに彼のような気もしたし全くの別人のような気もした。
『アトリエは海に近く、裏手を少し行けば切り立った崖があることから海に身を投げたのではと…』
私は、彼はようやく自分の絵の中に行けたのだと思う。ポストカードに耳を寄せて、微かに聴こえてくるいつかの口笛が私の幻聴で無ければの話。
読み込み中...
ykGA9p
2022年6月21日
「ディスコー!」
MCが声を上げた。皆、無関心だった。ここはディスコでもないし、踊る場所でもなかった。崩れ落ちたビルの残害、泣く子供。破壊されたインフラが悲鳴を上げている。
「セイ、ディスコー!」
MCの声はさらにボルテージを上げた。それでもおれは母親の死んだ身体をコンクリートの隙間から引きずり出すのに精一杯だった。かたわらでは妹が泣いていた。父親の行方は、この戦争が始まってからようとして知れない。
DJが、グルーヴィなサウンドを響かせた。おれは死んだ母親の腕を引っ張るのをやめて、音楽に聴き入った。
「ディスコ、ディスコ、ディスコー!」
おれは無茶苦茶に叫んで、踊り狂った。朝日が登るまで、そうしていた。
読み込み中...
uyiuzY
2022年6月21日
部屋を出るとじわりと汗が滲んだ。踊り場から見る風景は相変わらず目が痛くなるほどに白く、目を伏せてもくらくらとした感覚が鈍く残る。振り切るつもりで階段を降りても音だけが虚しく響いた。
フードを被り、黒い傘を差す。そんな風に強過ぎる日差しを避けなければもう外を歩くことなど出来ない、この季節はかつて「夏」と言った。遠い昔の話だ。
今は年がら年中燃えるように熱い。そういえば古い映像でしか見たことのない冬景色の色だけはこの街に似ていた。
だけど此処はただ渇いた白があるだけだ。厳かな美しさなど無い。現に、もう廃墟になりかけている。
どうかしていると自分でも思う。
それでもこの時期にしか見れないものがあった。白い世界に浮かぶのだ。見知らぬ風景。楽しげな喧噪。とうに失われたもの。誰かが「懐かしい」と言った。本当に見たこともないくせに。
どうかしてしまった人達がいる。
足元に転がる無数の黒い傘。影のような残骸。自分もいつかその一つになる。
成れる日を待っている。
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DkrDxM
2022年6月21日
「世界一嫌いなあなたに」
そんな置き手紙と共に添えられた冬虫夏草。
当然のごとく虫付き。
いや、そんなんテンプレと違うじゃん。
感動するような思い出の品とか置けよ。あったろもっと。
世界一嫌い=世界一好き が常識じゃん。
てか冬虫夏草ってなに?なんでそんなマニアックなの?
これで漢方でも作って健康になれってこと?
…え、好きじゃん
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qd1jCT
2022年6月21日
ああ、なんて残酷だろう。たった一言、脳みそから発された信号によって音となっただけの、たわいも無い言の葉なんかで、私の心をいとも簡単に奪ってしまうだなんて。
あなたなんか、他と変わらぬ細胞の集合体であるくせに!生意気にも人の心を惑わせて、挙句私にはその有り余る細胞のひとつさえ渡してくれやしない!
あなたなしではいられないと寂しがる私のことなど露知らず、あなたは私なしの生活をなんの支障もなしに送っていくだなんて、なんて薄情なのかしら。
私の心を取り上げるだけ取上げて、宙ぶらりんに放ってしまうなら、私はその心の取り返しようもないというのに。
読み込み中...
h0YpLQ
2022年6月20日
「これがナイスでないならば、いったいなにがナイスだっていうんだ」
鴨川沿いで等間隔に並ぶ大学生のカップルを見ながら、おれはそう口に出した。夕暮れの鴨川には少し涼しい風が吹いた。太陽は沈みつつあった。おれはストロングゼロを一口あおった。上々の気分だった。
隣に寄り添っていた女は黙っておれの手を握る。遅すぎた青春かと思った。これからおれたちの先には何もない。彼らには何かがあるかもしれない。ないかもしれない。
でも、この夕暮れの一瞬は永遠なのだし、別れを寂しく思う必要もない。川は静かに流れていた。
読み込み中...
q5HuxH
2022年6月19日
死に至る薬
「これを飲んだら安らかに消えることができるって本当?」
「あぁ、本当だよ。それを使った人はみんな満足して消えていったよ。」
怪しげな男から薬を受け取った女は、手の上にのせられた真っ青なビー玉のような薬を見つめた。目の下に真っ黒な隈がある事から何かの病だと思われる。女は静かに深呼吸してから一息にそれを飲み込んだ。
数時間後。
「どう、調子は。」
「ええ、聞いていた通りだったわ。かつての私は死んだわ。本当に別人になったのね。」
「そうだよ。死んだばかりの他の人間の魂と君の魂が混ざって、違う人間になっている。とある国では転生なんてもてはやされてるけどね、彼らはみんな実験的に無理やり連れてこられた哀れな羊さ。…よし、この世界を楽しめるように記憶を書き換えてあげようね。」
「ありがとう。助かるわ。」
そうしてまた1人、数合わせのためになんの罪も取り柄もない一般人が地球から異世界へと飛ばされた。
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MWvyi.
2022年6月18日
「実は私、魔法少女なんだ」
漫画やアニメで見るようなステッキを握った白と紫色の大人っぽい衣装が似合う魔法少女は儚い顔で笑った。
高校二年目の春。彼女のピンク色に染まったボブヘアが桜の花びらと共に風に吹かれるのが綺麗だった。
「……髪の色、似合ってるね」
「あは、そんなことはじめて言われたや」
ほんの少しだけ照れくさそうに笑う。眼鏡の右のつるを触る癖も、斜め下を見る瞳と揺れる睫毛も、本当は気にしている可愛い声もぜんぶそのままだ。
一生懸命張り上げる声が不思議と人に訴えかける力を持っていることも、ぜんぶ。
「あたしさ、小さい頃から強くて可愛い魔法少女達の事が好きだったんだ」
「……幻滅した?」
「まさか、ますます憧れちゃったよ。……ね、あたしもなれるかな? あなたみたいな魔法少女に」
仲良くなりたいと伝えるつもりで差し出した手を、彼女は違わず握ってくれた。
そして、睫毛を震わせてはつるを触りつつ。
「……きっと、もうなってるよ」
読み込み中...
bDCqO4
2022年6月18日
妻にお茶を買ってこいと言われて商店街に来てみたものの、お茶はどこで買えるのかよくわからない。和菓子屋に入ってお茶はありますか? と聞いてみたが、茶菓子はありますがと言われるだけだ。
途方にくれたおれは静岡に行こうかと思ったが、どの駅からなんの電車に乗ったら静岡に行けるかよくわからない。そもそも無職のおれに静岡まで行く電車賃の持ち合わせはない。
結局おれはコンビニに入ってペットボトルのお茶を二本買った。妻が言ったのは茶葉のことだろうが、これもお茶には違いない。右手に一本、左手に一本、おれはペットボトルのお茶を持ってアパートに帰った。
ドアを開けると、妻はおれの知らない男とまぐわっている最中だった。おれは静岡に行こうかと思ったが、ペットボトルのお茶を買ったせいで金がぜんぜんなかった。おれはドアを閉めてペットボトルの蓋を開けた。
読み込み中...
u23e1D
2022年6月16日
母と話しが通じない。
どれだけ言葉を尽くしても喧嘩になってしまう。私の話し方が悪いのか、母の理解力がないのか。大人になってから「毒親」なんて言葉を知り、私の母はこれなんだろうかと悩みながら毒親に関するサイトを見たりしていた。
しかし私の悩みは的外れだったのだ。
黙って急に実家に帰省した日、私はなんとなく中に入りづらくて、窓から部屋をのぞいた。
当然部屋には母がいると思ったのに、銀色で大きな黒い大きすぎる目の、どう見ても宇宙人としか思えない生き物がイスに座っているではないか。宇宙人は何をするでもなく、テレビを見ながら机に頬杖をついている。
ピンポーン
玄関でインターホンがなると、宇宙人は慌てたようにワンピースのような物を頭からかぶった。すると宇宙人はあっという間に母になった。飼い犬の太郎は何も気にせず尻尾を振っている。
話しが通じないのも当たり前だったのだ。私の母は宇宙人だった。私はその事実を知り、親が毒親でなかったことにほっとした。
読み込み中...
jYIDbg
2022年6月16日
ずっとお家から出られずいます。
代々続く古い家に独りぼっちです。歳のせいか掃除もままならず。時折、近所の人が手伝いに来てくれます。皆、知らない人。話しかけても不思議そうに見つめられ。自分が誰なのか忘れそうです。
昔は子どもたちが遊びに来てくれました。赤ちゃんが生まれたと、見せに来てくれて。あの子たちも成長したことでしょう。毎日の忙しい中、人は昔の存在を忘れてしまうのかもしれません。
さびれたインターホンがなりました。久々に人に会いました。知らない人でしたが、なにやら悩んでいました。
夢を叶えたく、しかし、もどかしい現実なようで。希望と不安で辛そうでした。私は医師ではありませんが、年の功で多くの人の話を聞いてきました。私は黙って話をききました。
「億万長者になれたらいいです
数分後、その人は苦笑しながら去りました。少しでも笑顔になれたのなら、私も嬉しいのですが。
玄関先に小さな光。みると5円玉。
あの。これは一体?
読み込み中...
JKxx8e
2022年6月16日
太陽が苦手だ、という友人がいた。
夏でもないのに日焼け止めを欠かさない彼にお前は吸血鬼なのか?と茶化せば(注釈しておくと彼は光線過敏症の診断は受けていなかった)、かもしれないねと眩しそうに目を細めたまま笑うのだ。
コンビニで買った好物のガーリックトーストを持つ手は、いつまでたっても青白いまま。
「てか、太陽が嫌ならなんで屋上にいるわけ?」
「なんでだろう……。死にたいからかなあ」
「うわ、滅多なこと言うなよ」
ふっと遠くを見る横顔が何かドラマのシーンのようで、現実味が薄いくせにニンニクの匂いが鼻をついて嘘にはならなかった。
いよいよ登校しなくなった奴は公園に俺を呼びつける。
ブランコが軋んで、街灯に友人の八重歯が光る。
「最近、歯が疼くんだ……」
ため息混じりに、嘆く。
頻りに腕をさする仕草のあと、こちらをチラリと見上げる瞳は夜にも関わらず強く、鈍く、光った。なるほどなあと妙に冷静に思う。
「お前、ゾンビだったのか」
読み込み中...
ci6Jgr
2022年6月16日
「凡人のひらめき」
私は樹を眺めている。樹齢何年かは分からないけれど、誇るようにたくさんのリンゴの実を身にまとった樹から、自らの重みに耐えかねたリンゴが1つ転がり落ちた。
私は傷のついたリンゴを見て雷に打たれたように閃いた。
これは…!
ジャムにしたら売れるのでは…!?
もしくはアップルパイやリンゴのタルトでもいい。売れる…!!
私は傷のついたリンゴを集めるといそいそと歩き出した。その時、樹を挟んだ反対側ではニュートンが万有引力を発見していたそうな。
読み込み中...
FXf2Ji
2022年6月16日
「ラーメン屋はもうやめる! 明日からはチャイニーズ・レストランだ!」
親父が宣言したのはおれが中三の夏だった。おれは部活帰りでジャージを着ていた。少し早い晩飯を食っていた客が三人くらいいた。三人が三人とも味噌ワンタン麺を食べていた。
翌日、親父は手書きの看板を店頭に掲げた。「チャイニーズ・レストラン・ザ・ペキン」。
おれのあだ名がペキンになるのはあっという間だった。ただし、親父の店は看板以外ラーメン屋のままだった。「新メニューは作らないの?」と母もたずねた。親父は無言だった。
その後も相変わらずの客が来て、相変わらず味噌ワンタン麺を注文しつづけた。おれはオヤジの跡を継がずサラリーマンになった。
古い友に会えばペキンと呼ばれるが、みんな由来なんて覚えていなかった。
親父もおれも北京に行ったことはない。
読み込み中...
WyHm6v
2022年6月15日
寒い日が続きました。コンクリートの壁は厚く、家族と身をひそめ暮らしました。なるべく地味に。キレイで目立つと、どこかに連れて行かれました。手当り次第にされ、無惨な姿で捨てられるそうです。抵抗しても力の差がありすぎました。皆、いつどうなるかわかりません。
春になり暖かくなるとママ・パパは、あなたたちだけでも幸せにと、子どもを遠くに飛ばす手配をしてくれました。一緒に行きたいけど、親は動けません。
風の強い日でした。今だ、とかけ声があり、一斉に逃げました。なるべく遠くへ。どこに行ったらよいかわかりません。兄弟もバラバラで行方不明です。
小さな僕たちはよりそいながら、なんとか生きていく土地を見つけました。毎日が怖くて不安でした。
少しずつ仲間もできました。朝の光をみて希望を捨てず、いつか花開こうと。涙を笑い飛ばし、暮らしています。僕たちは小さく無力ですが、精一杯、幸せに生きようと思います。
たんぽぽはあなたの側で咲いています。
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そっと目を閉じて幻想に浸る。けぶるような薄紅色の花を背に、あの人が私にはにかんだ微笑みを見せている。薄紅がふわりと優しく空を泳ぐ。
陽だまりのような柔らかな心地がした。これが死というものならば存外悪くない。私の腕が肘掛けから静かに滑り落ちた。
ときには飛び、ときには歩き、ときには走り、ときには休む。
暗闇の中に希望を見出し、静寂の中に未来を見る。
屈辱を胸に刻み、憎しみを糧に立ち上がる。終わりのない夢が体を蝕んでもなお、今日もまた迷いのない一歩を踏み出す。
それはいつも暗闇と共にいる。
白紙だったものには取り留めのない言葉が次々と並び、どうにかこうにか文の体裁を保って手紙面していた。
「好き」とか「愛してる」とか、そんな簡単なものじゃ決して表しきれないこの気持ちを受け止めてくれるのはこれしかなくて、手の痛みだって筆まめだって気にせず手を動かす。
この行為を始めてだいぶ経つけれど、私は一度だって自分が納得のいくものを書けたことがない。
それでも続けるのは、抱える気持ちのぶつけようが他に見つかりやしなかったから。
今日も今日とて書き終えた手紙をダンボールへ放り投げる。
積年ならぬ積紙の思いってやつ。
積み上げた紙の山も、そろそろ捨てるべきだろう。
ついでに貴方へのこの想いだって。
それができた試しがないから、こうして年も紙も積み上げたわけなんだけど。
でもしかたないじゃん。
筆まめとインクだらけの醜い手なんか、君はとってくれないでしょ?
「お先にどうぞ」
老婆が、か細い声で言う。人々はさも当然だという顔をして乗り込んで行く。
「おさきにどうぞ」
子供が、幼い声で言う。人々はほとんど無視するようにして足を進める。
「おさ、き、に、どう、ぞ」
病人が、息も絶え絶えに言う。人々はいっそういかめしい顔をして扉をくぐる。
ここに来た乗り物がどこへ向かうのか、気にする者は誰ひとりとしていない。どこに行くかではなく、目の前の乗り物に乗ることが目的だといわんばかりに、必死の形相をして乗り込んで行く。三人は、一便、また一便と乗り物を見送る。これが復路のない道行きなのだと、人々はまだ気づかない。
私はそれをニュースで見た。彼は画家だった。画家になったこともニュースで知った。画家という職業はゴッホとかモネとかくらいしか知らない私は、現代にも画家という職業はあるんだなとぼんやり思った気がする。そうして、あの頃一つ前の席に座っていた物静かな男の子が今や随分と遠いところにいるものだとも。
彼の個展には一度だけ行った。近所の百貨店でやっているのを見かけたからだ。月並みに綺麗な絵だと感心して、帰りにポストカードを一枚買った。彼の代表作らしい、不思議な夜の森の絵がプリントされたものを。
後ろ姿ばかり見ていたから、映し出される顔写真は確かに彼のような気もしたし全くの別人のような気もした。
『アトリエは海に近く、裏手を少し行けば切り立った崖があることから海に身を投げたのではと…』
私は、彼はようやく自分の絵の中に行けたのだと思う。ポストカードに耳を寄せて、微かに聴こえてくるいつかの口笛が私の幻聴で無ければの話。
MCが声を上げた。皆、無関心だった。ここはディスコでもないし、踊る場所でもなかった。崩れ落ちたビルの残害、泣く子供。破壊されたインフラが悲鳴を上げている。
「セイ、ディスコー!」
MCの声はさらにボルテージを上げた。それでもおれは母親の死んだ身体をコンクリートの隙間から引きずり出すのに精一杯だった。かたわらでは妹が泣いていた。父親の行方は、この戦争が始まってからようとして知れない。
DJが、グルーヴィなサウンドを響かせた。おれは死んだ母親の腕を引っ張るのをやめて、音楽に聴き入った。
「ディスコ、ディスコ、ディスコー!」
おれは無茶苦茶に叫んで、踊り狂った。朝日が登るまで、そうしていた。
フードを被り、黒い傘を差す。そんな風に強過ぎる日差しを避けなければもう外を歩くことなど出来ない、この季節はかつて「夏」と言った。遠い昔の話だ。
今は年がら年中燃えるように熱い。そういえば古い映像でしか見たことのない冬景色の色だけはこの街に似ていた。
だけど此処はただ渇いた白があるだけだ。厳かな美しさなど無い。現に、もう廃墟になりかけている。
どうかしていると自分でも思う。
それでもこの時期にしか見れないものがあった。白い世界に浮かぶのだ。見知らぬ風景。楽しげな喧噪。とうに失われたもの。誰かが「懐かしい」と言った。本当に見たこともないくせに。
どうかしてしまった人達がいる。
足元に転がる無数の黒い傘。影のような残骸。自分もいつかその一つになる。
成れる日を待っている。
そんな置き手紙と共に添えられた冬虫夏草。
当然のごとく虫付き。
いや、そんなんテンプレと違うじゃん。
感動するような思い出の品とか置けよ。あったろもっと。
世界一嫌い=世界一好き が常識じゃん。
てか冬虫夏草ってなに?なんでそんなマニアックなの?
これで漢方でも作って健康になれってこと?
…え、好きじゃん
あなたなんか、他と変わらぬ細胞の集合体であるくせに!生意気にも人の心を惑わせて、挙句私にはその有り余る細胞のひとつさえ渡してくれやしない!
あなたなしではいられないと寂しがる私のことなど露知らず、あなたは私なしの生活をなんの支障もなしに送っていくだなんて、なんて薄情なのかしら。
私の心を取り上げるだけ取上げて、宙ぶらりんに放ってしまうなら、私はその心の取り返しようもないというのに。
鴨川沿いで等間隔に並ぶ大学生のカップルを見ながら、おれはそう口に出した。夕暮れの鴨川には少し涼しい風が吹いた。太陽は沈みつつあった。おれはストロングゼロを一口あおった。上々の気分だった。
隣に寄り添っていた女は黙っておれの手を握る。遅すぎた青春かと思った。これからおれたちの先には何もない。彼らには何かがあるかもしれない。ないかもしれない。
でも、この夕暮れの一瞬は永遠なのだし、別れを寂しく思う必要もない。川は静かに流れていた。
「これを飲んだら安らかに消えることができるって本当?」
「あぁ、本当だよ。それを使った人はみんな満足して消えていったよ。」
怪しげな男から薬を受け取った女は、手の上にのせられた真っ青なビー玉のような薬を見つめた。目の下に真っ黒な隈がある事から何かの病だと思われる。女は静かに深呼吸してから一息にそれを飲み込んだ。
数時間後。
「どう、調子は。」
「ええ、聞いていた通りだったわ。かつての私は死んだわ。本当に別人になったのね。」
「そうだよ。死んだばかりの他の人間の魂と君の魂が混ざって、違う人間になっている。とある国では転生なんてもてはやされてるけどね、彼らはみんな実験的に無理やり連れてこられた哀れな羊さ。…よし、この世界を楽しめるように記憶を書き換えてあげようね。」
「ありがとう。助かるわ。」
そうしてまた1人、数合わせのためになんの罪も取り柄もない一般人が地球から異世界へと飛ばされた。
漫画やアニメで見るようなステッキを握った白と紫色の大人っぽい衣装が似合う魔法少女は儚い顔で笑った。
高校二年目の春。彼女のピンク色に染まったボブヘアが桜の花びらと共に風に吹かれるのが綺麗だった。
「……髪の色、似合ってるね」
「あは、そんなことはじめて言われたや」
ほんの少しだけ照れくさそうに笑う。眼鏡の右のつるを触る癖も、斜め下を見る瞳と揺れる睫毛も、本当は気にしている可愛い声もぜんぶそのままだ。
一生懸命張り上げる声が不思議と人に訴えかける力を持っていることも、ぜんぶ。
「あたしさ、小さい頃から強くて可愛い魔法少女達の事が好きだったんだ」
「……幻滅した?」
「まさか、ますます憧れちゃったよ。……ね、あたしもなれるかな? あなたみたいな魔法少女に」
仲良くなりたいと伝えるつもりで差し出した手を、彼女は違わず握ってくれた。
そして、睫毛を震わせてはつるを触りつつ。
「……きっと、もうなってるよ」
途方にくれたおれは静岡に行こうかと思ったが、どの駅からなんの電車に乗ったら静岡に行けるかよくわからない。そもそも無職のおれに静岡まで行く電車賃の持ち合わせはない。
結局おれはコンビニに入ってペットボトルのお茶を二本買った。妻が言ったのは茶葉のことだろうが、これもお茶には違いない。右手に一本、左手に一本、おれはペットボトルのお茶を持ってアパートに帰った。
ドアを開けると、妻はおれの知らない男とまぐわっている最中だった。おれは静岡に行こうかと思ったが、ペットボトルのお茶を買ったせいで金がぜんぜんなかった。おれはドアを閉めてペットボトルの蓋を開けた。
どれだけ言葉を尽くしても喧嘩になってしまう。私の話し方が悪いのか、母の理解力がないのか。大人になってから「毒親」なんて言葉を知り、私の母はこれなんだろうかと悩みながら毒親に関するサイトを見たりしていた。
しかし私の悩みは的外れだったのだ。
黙って急に実家に帰省した日、私はなんとなく中に入りづらくて、窓から部屋をのぞいた。
当然部屋には母がいると思ったのに、銀色で大きな黒い大きすぎる目の、どう見ても宇宙人としか思えない生き物がイスに座っているではないか。宇宙人は何をするでもなく、テレビを見ながら机に頬杖をついている。
ピンポーン
玄関でインターホンがなると、宇宙人は慌てたようにワンピースのような物を頭からかぶった。すると宇宙人はあっという間に母になった。飼い犬の太郎は何も気にせず尻尾を振っている。
話しが通じないのも当たり前だったのだ。私の母は宇宙人だった。私はその事実を知り、親が毒親でなかったことにほっとした。
代々続く古い家に独りぼっちです。歳のせいか掃除もままならず。時折、近所の人が手伝いに来てくれます。皆、知らない人。話しかけても不思議そうに見つめられ。自分が誰なのか忘れそうです。
昔は子どもたちが遊びに来てくれました。赤ちゃんが生まれたと、見せに来てくれて。あの子たちも成長したことでしょう。毎日の忙しい中、人は昔の存在を忘れてしまうのかもしれません。
さびれたインターホンがなりました。久々に人に会いました。知らない人でしたが、なにやら悩んでいました。
夢を叶えたく、しかし、もどかしい現実なようで。希望と不安で辛そうでした。私は医師ではありませんが、年の功で多くの人の話を聞いてきました。私は黙って話をききました。
「億万長者になれたらいいです
数分後、その人は苦笑しながら去りました。少しでも笑顔になれたのなら、私も嬉しいのですが。
玄関先に小さな光。みると5円玉。
あの。これは一体?
夏でもないのに日焼け止めを欠かさない彼にお前は吸血鬼なのか?と茶化せば(注釈しておくと彼は光線過敏症の診断は受けていなかった)、かもしれないねと眩しそうに目を細めたまま笑うのだ。
コンビニで買った好物のガーリックトーストを持つ手は、いつまでたっても青白いまま。
「てか、太陽が嫌ならなんで屋上にいるわけ?」
「なんでだろう……。死にたいからかなあ」
「うわ、滅多なこと言うなよ」
ふっと遠くを見る横顔が何かドラマのシーンのようで、現実味が薄いくせにニンニクの匂いが鼻をついて嘘にはならなかった。
いよいよ登校しなくなった奴は公園に俺を呼びつける。
ブランコが軋んで、街灯に友人の八重歯が光る。
「最近、歯が疼くんだ……」
ため息混じりに、嘆く。
頻りに腕をさする仕草のあと、こちらをチラリと見上げる瞳は夜にも関わらず強く、鈍く、光った。なるほどなあと妙に冷静に思う。
「お前、ゾンビだったのか」
私は樹を眺めている。樹齢何年かは分からないけれど、誇るようにたくさんのリンゴの実を身にまとった樹から、自らの重みに耐えかねたリンゴが1つ転がり落ちた。
私は傷のついたリンゴを見て雷に打たれたように閃いた。
これは…!
ジャムにしたら売れるのでは…!?
もしくはアップルパイやリンゴのタルトでもいい。売れる…!!
私は傷のついたリンゴを集めるといそいそと歩き出した。その時、樹を挟んだ反対側ではニュートンが万有引力を発見していたそうな。
親父が宣言したのはおれが中三の夏だった。おれは部活帰りでジャージを着ていた。少し早い晩飯を食っていた客が三人くらいいた。三人が三人とも味噌ワンタン麺を食べていた。
翌日、親父は手書きの看板を店頭に掲げた。「チャイニーズ・レストラン・ザ・ペキン」。
おれのあだ名がペキンになるのはあっという間だった。ただし、親父の店は看板以外ラーメン屋のままだった。「新メニューは作らないの?」と母もたずねた。親父は無言だった。
その後も相変わらずの客が来て、相変わらず味噌ワンタン麺を注文しつづけた。おれはオヤジの跡を継がずサラリーマンになった。
古い友に会えばペキンと呼ばれるが、みんな由来なんて覚えていなかった。
親父もおれも北京に行ったことはない。
春になり暖かくなるとママ・パパは、あなたたちだけでも幸せにと、子どもを遠くに飛ばす手配をしてくれました。一緒に行きたいけど、親は動けません。
風の強い日でした。今だ、とかけ声があり、一斉に逃げました。なるべく遠くへ。どこに行ったらよいかわかりません。兄弟もバラバラで行方不明です。
小さな僕たちはよりそいながら、なんとか生きていく土地を見つけました。毎日が怖くて不安でした。
少しずつ仲間もできました。朝の光をみて希望を捨てず、いつか花開こうと。涙を笑い飛ばし、暮らしています。僕たちは小さく無力ですが、精一杯、幸せに生きようと思います。
たんぽぽはあなたの側で咲いています。